ディベロッパーから明渡しを求められ立退料を獲得した事例
AさんとBさんは、父Xさんが亡くなり、遺産について話し合いをしました。
AさんとBさんは、それぞれ賃貸住宅を借りて、それぞれの家族と暮らしていました。父Xさんが暮らしていた実家は、生前Xさんが「長男であるAさんに継いでほしい」と言っていたので、Aさんが相続することにし、Bさんも同意しました。
しかし、Aさんは仕事の関係で、すぐに実家に引っ越しをすることはできなかったのですが、空き家にしておくと家が傷んでしまうので、しばらくはBさんが住まないかと提案しました。Bさんはそれに同意し、月5万円をAさんに支払って、実家に住むようになりました。
それから20年以上が経ったある日、Bさんのもとに突然、ディベロッパーから「Aさんからこの家を買いました。引っ越し代は出すので、できる限り早く立ち退いてください」という連絡が来ました。Bさんは、Aさんに事情を確認しようとしましたが、AさんはBさんからの連絡に応じませんでした。
Bさんは、実家に20年以上住み続けており、つい最近、Aさんの了解を得て、大規模なリフォーム工事をしたばかりでした。その工事費用はBさんが支出しており、まだローンも残っています。Bさんは、ディベロッパーの言う通り実家から立ち退かなければいけないのか、立ち退くにしても金銭的にきちんと補償を受けられないと困ると思い、弁護士に相談しました。
弁護士が不動産登記を確認すると、確かに実家はAさんからディベロッパーに売却されていました。Bさんの代理人として、ディベロッパーと交渉しました。
Bさんは、工事費用のローン残高をはじめ、金銭的にきちんと補償を受けられるのであれば立ち退いても構わないと考えたため、弁護士は、ローン残高に相当する金額、引っ越し費用、当面の賃料などを主張して、明渡しと引き換えにディベロッパーから解決金の支払いを受ける内容での和解をしました。
本件のポイント
建物の所有者から明渡しを求められた場合、そもそも法律的に明渡しの義務があるのかどうかを検討する必要があります。
居住者と所有者との間で賃貸借契約が締結されている場合には、借主の地位は民法及び借地借家法で保護されるため、所有者側(貸主側)から一方的に契約を終了させることが法的に認められる場面はかなり限られます。「立退料」は、貸主側から契約を終了させるための正当な理由を補完する一つの要素です。
貸主が建物を第三者に売却するなどして、建物の所有者が変わった場合(いわゆる「オーナーチェンジ」があった場合)であっても、原則として賃貸借契約は引き継がれるため、新所有者が明渡しを求めることは、法的には簡単ではありません。
他方で、無償での使用貸借契約の場合は、賃貸借契約とは異なり、建物の所有権を引き継いだだけでは契約は引き継がれませんので、新所有者は「立退料」を支払う必要はありません。
本件では、親族間での貸借であったため、BさんとAさんとの間に賃貸借契約書は存在しませんでした。また、Bさんが月々支払っていた金員は、特に「家賃として」支払っていたという記録はなく、金額も近隣の賃料相場に比べてかなり低いものでした。しかし、弁護士は、Bさんが支払っていた金銭が賃料であり、BさんとAさんとの間には賃貸借契約が成立していたと主張し、Bさんに明渡義務がないという前提で交渉をしました。結果として、ディベロッパーから、立退料の趣旨で解決金の支払いを受けることができました。
新所有者から突然明渡しを求められたとしても、そもそも明け渡す義務があるのかどうか、慎重に検討する必要があります。