法律相談所 たいとう

解決事例
一般民事(労働を含む)

借用書なしに親族に貸し付けた金銭を回収した事例

相談内容

 Aさんは、勤務先を定年退職したころ、兄のBさんから「100万円貸してほしい」と頼まれました。Bさんも会社勤めをしていましたが、数年前に退職していました。Bさんが勤務していたのは大きな会社で、給料の金額も高く、退職金もまとまった金額を得ているはずで、年金も合わせれば生活に困ることはないと思われたため、AさんがBさんに理由を尋ねたところ、「投資に失敗した。必ず返す」とのことでした。Aさんは、兄であるBさんの頼みを断り切れず、自分の退職金から100万円を指定された口座に振り込んで貸し付けました。きょうだい間であったため、借用書などは作成しませんでした。
 その後もAさんは、Bさんから「病気で入院することになった。医療費がかかるのでまた貸してほしい」などと、何度も借金の依頼を受けました。Aさんは、Bさんに対して、「借金を続けるのではなく、Bさん名義の自宅を売却してはどうか」と勧めましたが、Bさんは「いっしょに住んでいる家族に借金のことを話せていない」と言って、消極的でした。それでもAさんは、いざとなればBさんの自宅売却代金から返済を受けられると考え、依頼に応じて貸付を続けた結果、貸付金額の合計は1000万円にもなってしまいました。
 そして、Bさんは、病気が悪化して亡くなってしまいました。
 Bさんに貸し付けた1000万円は、Aさんにとっては大事な老後の資金だったので、Aさんは弁護士に相談しました。

受任結果

 弁護士は、まず、Bさんの相続人を調査しました。調査の結果、Bさんの相続人は、子であるCさんのみでした。そこで弁護士は、Aさんの代理人として、Bさんから借金を相続したと考えられるCさんに対し、貸金1000万円の返還を求めました。その際、AさんがBさんに振り込みをした証拠として、振込明細書のコピーをCさんに送りました。
 Cさんからは、「Aさんから借金をしていたなんて、生前父(Bさん)からは聞いたことがない」として、返済を拒否する返事がありました。
 弁護士は、やむを得ず、Cさんを被告として、裁判所に貸金返還請求訴訟を提起しました。
 訴訟では、Cさんも代理人弁護士をつけて、「Aさんから父(Bさん)にお金の振込はあったかもしれないけれども、借金ではなく、贈与だ。契約書も借用書もないではないか。」と主張して、返還の義務を争いました。
 弁護士は、客観的・直接的な証拠のない中でも、当時の状況を詳しく主張するとともに、Bさんが別のきょうだいに対して借入れを申し込む文言が記載されている手紙などを間接証拠として提出し、もしCさんが主張するように贈与であれば贈与税の申告がなされているはずであることや、贈与にしては金額が大きすぎることなどを合わせて主張しました。
 最終的には、裁判上の和解により、請求額の半分を上回る金額を、Cさんから和解金として支払いを受けることができました。

本件のポイント

 借金の返済を求めるには、法律上、お金を渡したことと、返還の約束があったことが必要です。返還の約束は、当事者間での口約束であっても有効ですが、借りた側が「借りたのではなく、もらったもの(贈与)だ」と主張した場合、貸した側が返還の約束があったことを証明しなければなりません。その場合、金銭消費貸借契約書や借用書は有力な証拠となりますので、貸付の際は、きちんと書面にすることをお勧めします。
 ただ、親族間など親しい間柄での借金については、金銭消費貸借契約書や借用書といった書面を作成しないことも少なくないと思います。その場合であっても、周辺の事情を主張立証することによって、返還の約束を証明できることがあります。
 書面を作成していないからといってあきらめずに、まずは弁護士にご相談ください。