調停で不当に低い養育費を決めてしまった場合にも、増額はできない?
1 養育費の増額には、原則は、調停後の事情の変更が必要
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、一緒に暮らして子どもを養育する人は、他方に対して、法律上、養育費の支払いを要求することができます。
以下、母親が養育費をもらう側、父親が養育費を支払う側、のケースを前提にしてお話しします。
家庭裁判所に調停を申し立てて「家事調停手続き」の中で、養育費に関する約束をしておくと、もし父親が不払いをした時にも、母親は、父親の財産やお給料を差し押さえることができます。
家事調停では、互いの収入を照らし合わせて、子どもの人数や年齢に応じた妥当な養育費を決めるために、調停委員を仲立ちにして話し合いが行われます。(なお、調停でも決着がつかない場合、審判や裁判で養育費を決めることになります。)
そして、一度、家事調停で養育費の額を決めると、その後、養育費の増額を求めるためは、次のような事情が必要であるといわれています。
①調停で約束した時とは事情が変わったこと
②調停で約束した時には、そうした事情の変更が予想できなかったこと
③そうした事情の変更を前提にすると、養育費の額が低額となること
*父親側が養育費をもっと低くしてもらうことを求める場合には、③を「養育費の額が高額となること」に置き換えてください。
2 DV被害者が、相手の言いなりになって養育費を決めた場合も見直しはできない?
深刻なDVが背景にあるようなケースでは、被害者側は一日も早く離婚したいと望み、本来ならもっと多くの金額を求めることができるのに、加害者の言いなりになって、安い金額で妥協してしまうことがあります。
中には、母親にはほとんど収入はなく、父親は年収500万円以上なのに、子ども1人の養育費が金1万円というようなケースもあり、このような場合に、いつまでも泣き寝入りをしなければならないのは、大変酷な結果です。
このようなケースについて、裁判所が、前回の調停では、当事者双方の収入に基づいて養育費を決めておらず、父親の提案した額通りに母親が同意して決まったものだとして、特に収入面での事情変更はなくても養育費の増額を認めた例があります。このケースでは、母親は、前回の調停当時の父親への恐怖心などの心境を、日記を提出するなどして詳細に訴えました。
3 養育費と子どもの福祉
養育費は、子どもの未来を守るための制度です。
それは、経済的な問題だけではありません。
親の離婚を経験した子どもでも、一緒に暮らしていない方の親から養育費をちゃんともらっている子どもと、そうでない子どもとでは、自己肯定感の高さがまったく違うという報告があります。
子どもの健全な成長を守るために、適切な養育費の支払いを粘り強く求めて頂きたいと思います。
(弁護士 佐藤 香代)