“相続法”が変わる!?変わった!?
【“相続法”改正】
平成30年7月,「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が国会で成立し,交付されました。契約に関する部分などの民法の債権関係の規定の改正に引き続いて,相続法の分野についても,昭和55年以来の大きな改正となりました。
今回の改正は,社会の高齢化が更に進展し,相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため,その保護の必要性が高まったとして,残された配偶者の生活に配慮する等の観点から,配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。
これらの改正法の施行日は,原則として平成31年7月1日ですが,本年1月13日から,すでに施行されているものもあります。具体的な事例で見てみましょう。
<Aさんは,自分で遺言書を作りたいと思い,パソコンで,「Bに自宅土地建物を相続させる」「Cに別荘のマンションを相続させる」「Dに●●銀行の預金を相続させる」「Eに△△銀行の相続させる」と,だれにどの財産を相続させるかの文書を作成して,プリントアウトしました。>
【遺言書のルール】
民法第960条は,「遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,することができない。」と定めています。遺言の方式としては,公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」と,遺言をする人が自分で遺言書を作成する「自筆証書遺言」などがあります。弁護士としては,より確実な方式である「公正証書遺言」をお勧めすることが多いですが,Aさんは,費用もかけずに自分一人で手軽にできる「自筆証書遺言」をしようとしているようです。
「自筆証書遺言」については,民法第968条第1項で,「遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自書(自ら書くことをいいます。)して,これに印を押さなければならない」と定められています。したがって,Aさんは,パソコンで遺言を作成することはできず,原則として「全文を」自分の手で書くことが必要です。
【「全文手書き」のルールの例外ができました】
ところが,今回の改正で,その例外が定められました。新設された第968条第2項によって,「相続財産の全部又は一部の目録(以下,「財産目録」といいます。)」を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになったのです。財産目録は,すべてのページに遺言者が署名押印する必要がありますが,書式は自由で,遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし,遺言者以外の人が作成することもできます。
Aさんは,遺言書本文部分は自書しなければなりませんが,「Bに別紙財産目録1の不動産を相続させる」と書いておいて,パソコンで作成した財産目録を添付したり,「Bに別紙1の不動産を相続させる」と書いておいて,土地建物について登記事項証明書を財産目録として添付することもできます(預貯金については通帳の写しを添付することもできる。)。
【例外ルール,どう活かす?】
自筆証書遺言の場合,遺言者が亡くなった後で,その遺言の解釈が争いになることも少なくないため,できる限り二義を許さない遺言を作成すべきです。他方で,これまでは,全て自書しなければならないとなると,詳細に遺産を特定することは,特にご高齢の方にとってはご負担が大きいということもありました。今回の改正によって,自筆証書遺言には様々な工夫の余地ができましたが,やはり方式が大切です。ご不安な方は,弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。