法律相談所 たいとう

たいとうちゃん通信
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部活動中の事故をめぐる裁判例~野球部編~

速い速度で硬球が飛び交う野球部の部活動では、様々な生徒の負傷事故が起き、こうした事故の責任が裁判で争われてきました。主要な裁判例としては、以下のようなものがあります。

 

◎学校の責任を肯定した事例

(1)京都地裁H5.5.58判決(判例タイムズNo841、P229)

【事案の概要】

 公立中学校の野球部紅白戦中、主審を務めていた野球部員の目にファールチップの球が当たった事例

【判断の主な理由】

 主審をする者がマスクを着用しないことはその生命身体にとって極めて危険であり、当該部活動においては、野球部員がマスクをしないまま紅白戦の主審をすることが結構あり、そうした状況を指導監督する教員も知る機会があった。

 そうである以上、野球部の指導監督をしていた教諭は、平素から、部員に対し、審判をする際の危険性について周知徹底するとともに、必ずマスクを着用することを指示するなどして指導すべきであった。

(過失相殺4割)

 

 (2)東京高裁H6.5.24判決(判例タイムズNo849、P198)

【事案の概要】

 県立高校の野球部の部活動中、薄暮の時間帯にハーフバッティングを練習していたところ、打球が投手を直撃した事例

【判断の理由】

 ハーフバッティングは、実施の時間帯や方法の如何によっては投手にとり危険性の高い練習方法であって、投手には投球後直ちに防球ネットに身を隠すよう指導するほか、必ず明るさなど条件がよい時間帯に行うなどきめ細かく安全に配慮した上実施するべきであった。しかし、本件では、そうしたきめ細かい配慮がなされないまま、薄暮の時間帯になっても続けられていた。

【コメント】

 ハーフバッティングのような一般的にポピュラーな練習方法であっても、漫然と練習させるのではなく、実施の時間帯や方法などを考慮した指導をするべきとしている点が重要。

 

(3)神戸地裁尼崎支部H11.3.31判決(判例タイムズNo1011、P229)

【事案の概要】

 県立高校の野球部の部活動中、ピッチングマシン2台を並べてフリーバッティングを練習していた際、1台にボールを入れる係りをしていた部員に、もう1台のマシンで練習をしていた部員の打球が、防球ネットが損傷していたためにネットを通過して当たった事例

【判断の理由】

 部活動も学校教育の一環として実施される者である以上、顧問教諭は、生徒である野球部員を指導監督し、自己の発生を防止すべき注意義務がある。

 指導教諭は、自ら防球ネットの損傷の有無を確認するか、あるいは部員に対し、絶えず確認し損傷がある場合には必要な補修をするように指導するべきであった。

 

(4)福岡地裁小倉支部H17.4.21

 【事案の概要】

 野球部員Aが、顧問教諭の指導に従って、バットをスイング中にあえて放投する練習をしようとしたところ、そのバットが右斜め後方に飛び、約7メートル離れた地点でティーバッティングのトス係をしていた野球部員Bの左目に当たった事例

【判断の理由】

 野球部の練習の指導に当たる者は、部員の生命や身体に危険が及ばないように配慮して事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負う。

 バットをあえて放投する練習の際には、その練習方法に慣れていないとバットがまっすぐ飛ばないことや、勢い余って右後方に飛んでいくことも予想しえたのであるから、野球部員Bらに対しても、声をかけたり移動を促すなどするべきであった。

 

(5)名古屋地裁H18.10.13判決(判例タイムズNo1241、P189)

【事案の概要】

 県立高校野球部のゴロ捕り練習をしていた野球部員に、ノック練習をしていた野球部員のノック球が当たった事例

【判断の理由】

 指導・監督に当たる者は、生徒の自主性をできる限り尊重しつつも、事故等の発生が予想される場合には、これを防止するのに必要な措置を積極的に講ずるという注意義務を果たさねばならない。

 同一グラウンド内で複数の球が移動するような練習はしないこと、また、やむを得ず行う場合、参加者全員がその危険性を認識した上、とりわけノッカーに対しては、他の部員の動静を確認し、ノック球にも注意が向けられていることを確認した後でなければノックしないなどの指導をするべきであった。

(過失相殺4割)

 

◎学校の責任を否定した事例

(1)横浜地裁S63.3.30判決(判例時報No1249、P101)

【事案の概要】

 野球部員が4~5メートルの間隔で並列してトスバッティング(バットを振りきらず、ワンバウンドで緩くピッチャーに打ち返す練習)をしていた際、被害生徒に対応するバッターの打球が被害生徒の左後方にそれたため、バッター側に背を向けて捕球しようとしたところ、隣の打者の打球が当該生徒に当たった事例

【判断の理由】

  4~5メートル間隔で並列してトスバッティングを行う方法は、ピッチャーの体に打球が当たる可能性がないとは言えないが、隣のピッチャーの体に強い打球が当たる可能性は極めて小さい。

 部員らは平常まじめに練習しており、本件事故に至るまでトスバッティング中に事故が発生したことはなかった。

 

(2)浦和地裁H1.3.31判決(判例時報No1327、P91)

 【事案の概要】

 ピッチングマシンを使った練習中、球を入れる部員と捕手との連携がまずくピッチングマシンから飛び出した球がよそ見をしていた捕手の頭部左耳上部を直撃し、頭部外傷により死亡した事例

【判断の理由】

当時、ピッチングマシンの危険性については一般に認識されておらず、かかる機械を導入したこと自体に学校側の過失があるとは言えない。

 当該部活動においては、ピッチングマシンを使用にあたって、適切な安全確保の方法が上級生から下級生に伝えられており、本件事故当時も、その方法がとられていた。

 

(3)東京地裁H4.3.25判決(判例時報No1442、P121)

 【事案の概要】

 バッティング練習中に打者の後方で球拾いをしていた部員がにファウルボールが当たった事例

【判断の理由】

 ファウルボールは、一般にさほど威力の強いものではない。

 被害生徒は小学校4年生から少年野球で捕手を経験し、球拾いも相当習熟し、かなりの程度自らの行動を弁識し、これを自主的に決定する能力を有するとみられる。

シートバッティングという練習方法は、野球部における練習としては、通常行われるものであり、特に危険性の高いものではない。

 これらの諸事情に照らすと、指導教諭は生徒の自主性を尊重しつつ指導すれば足り、本件事故の発生を具体的に予見可能であったとはいえないから、過失はない。