【寄稿】「週刊教育資料」に、弁護士佐藤香代が「教育問題法律相談『熱中症をめぐる最新判例』」を寄稿しました。
週刊教育資料No.1350に、弁護士佐藤香代が担当しているコラム「教育問題法律相談『熱中症をめぐる最新判例』」が掲載されました。
(質問)
私立高校の校長です。本校では、生徒は熱心に課外クラブ部活動に参加しています。毎年のことですが、クラブ活動中の生徒の熱中症対策は重要な課題です。近時、生徒の熱中症をめぐり高額な賠償命令が下された事例がありましたが、どのような事例で、そのポイントは何だったのでしょうか。
(回答)
県立高校のテニス部に所属していた当時高校2年生の女子生徒が、練習中に熱中症で倒れた事例について、大阪高等裁判所は、生徒本人及び両親合わせて、総額2億3700万円あまりの賠償を命じました(大阪高裁平成27年1月22日判決)。
この事例では、学校側が、本人が倒れた原因はウィルス性心筋炎等の他の原因であった可能性が高いと主張し、そもそも熱中症であったのかどうか自体が中心的な争点となり、一審では生徒側が敗訴しました。
しかし、高等裁判所は、熱中症の診断基準について、日本救急医学会と日本神経救急学会が、平成24年に診断基準を改定しており、その中で、「暑熱環境にいる、あるいはいた後の体調不良は全て熱中症の可能性がある。各重症度における症状は、よくみられる症状であって、その重症度では必ずそれが起こる、あるいは起こらなければ別の重症度に分類されるというものではない。熱中症の病態(重症度)は、対処のタイミングや内容、患者側の条件により刻々変化する。特に意識障害の程度、体温(測定部位)、発汗の程度等は、短時間で変化の程度が大きいので注意する。」とされたことを引用し、生徒の症状は、熱中症の要件をすべて満たすと認めました。他方で、他の原因である可能性を指摘する学校側の主張については、医師の意見書や論文等を踏まえて、否定しました。
その上で、顧問教諭の過失について、次のような判断を示しました。
まず、事故発生時の顧問教諭の認識に関して、顧問教諭は、事故当日の状況に関し、定期試験の最終日で生徒らの睡眠が不規則であったこと、季節は初夏でテニスコート内は30度前後となったこと、コート内に日陰もないこと、生徒が帽子を使用していないことなどを認識し得たとしました。
そして、こうした認識を持てたはずなのに、温度が高くなる午後の時間帯に、通常よりも練習時間も長く、練習内容も密度の高いメニューを生徒に指示した上、水分補給に関する特段の指導もせず、水分補給のための十分な休憩時間を設定しない形で練習の指示をしていたことについて、過失があると判断しました。
なお、この事例では、学校長が、「倒れたのは心筋炎という病気。それなのに両親はお金のことばかりいうなど、無理難題を突きつけられ困っている」と発言していたことが裁判においても認定され、「配慮に欠ける」との苦言を呈された点も特徴的です。