法律相談所 たいとう

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【寄稿】週刊教育資料・教育問題法律相談「親子関係の確定をめぐる法律」

週刊教育資料No1338に、弁護士佐藤香代が担当しているコラム、教育問題法律相談「親子関係の確定をめぐる法律」が掲載されました。

(質問)

小学校の校長です。今年の新入生の中で、父親が長年収監されている子どもがいますが、母親の話では、実は、父親が収監されている間に、別の男性との間でできた子どものようです。父親は、子どもが生まれていることすら知りません。母親としても、このままでは子どものためによくないと考えているようです。

戸籍上の親子関係を訂正するために、法的にはどのような手段があるのですか。

(回答)

民法は、妻が夫との婚姻中に妊娠した子どもは、夫の子どもであると推定しています(民法772条1項2項)。

その意味は、子どもの出生届を出した場合、自動的に父親は妻の夫であるものとして戸籍上扱われ、その父親が子どもの親権者となり(民法818条)、監護及び教育の権利義務(民法820条)や懲戒権(民法822条)、財産管理権(民法824条)、扶養義務(民法877条)等の権利を有し、義務を負うことになります。

妻が、婚姻中に夫以外の男性の子どもを産んだ場合に、民法772条の推定を覆すための方法は、いくつか考えられます。

まず、夫側が採る手段として、子の出生を知った日から1年以内に、「嫡出否認の訴え」を提起することにより、親子関係を否定することができます(民法774条、775条、777条)。ただし、この方法は、夫からしかできず、1年以内という期間的な制約もあり、他の救済策が求められます。

そもそも、民法772条の推定規定は、「夫婦が婚姻している間は、夫婦間で性的交渉があり、かつ、妻は夫以外の男性と性的交渉はしない」という前提に立っています。しかし、夫が長期に亘り収監されている間に生まれた子どもについては、こうした前提は成り立ちません。

そこで、形式的には、民法772条の要件を備えていても、夫婦間に性的交渉がないことが外見上も明らかであれば、民法772条の推定は及ばないと考えられています。

こうした子どもたちは、講学上、「推定の及ばない嫡出子」と呼ばれています。

推定の及ばない嫡出子については、子や母の側からも、戸籍上父とされた男性に対し、「親子関係不存在確認の訴え」をすることが認められています。この訴えは、嫡出否認の訴えのような制限はなく、いつでも提起することができます。

具体的には、まず、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に調停を申し立てます。調停で話し合いがまとまれば「合意に相当する審判」が下されます。合意ができず、調停が不成立となれば、訴訟に移行します。

この手続きを経て、戸籍上父とされた男性との間には親子関係がないことを法的に確認した後、遺伝学的な父に対して、認知を求めることができます。